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「はみだしっ子」三原順 [三原順]

「はみだしっ子」三原順
白泉社 花とゆめに1975〜81年掲載


昭和のマンガの傑作。
難解で読みにくさったらないし、重いテーマだけど、他に同じような作品は見当たらず、マンガ史に残るものと言って過言ではないと思う作品です。
作者はみうらじゅんでも、三原順子でもなく(笑)・・・三原順(みはらじゅん)。42歳で亡くなっている。

先日、文庫版を友人Tちゃんに借りて、この作品を30年ぶりに再読した。
読んでいたのはおそらく中学生のころ。遥か昔で記憶が曖昧になっていたが、再読してみて、全編に渡り細部まで記憶がよみがえったことから、当時非常に熱中して読んだのだろう。
小学5、6年生〜中学2、3年生まで、「花とゆめ」を購読していたので、雑誌で読み、それ以前の話はコミックスで読んだと思う。
しかし、最終回の終わり方が15、6才のわたしには理解出来ず、ドタマに来て、愛蔵コミックスを全部破棄してしまった。以来30年、記憶の隅においやられて、再読するまでほぼ忘れてしまっていた作品。

内容は、グレアム、アンジー、サニー、マックスという4人の男の子が、様々な事情で親に捨てられたり、親と決別して家出し放浪生活をする話。最初はグレアム、アンジーが7歳、サニー、マックスが5歳。マジ子供です。
後半はクレーマー家に4人一緒に養子となり、親や定住地を得ての話となる。最終的にはグレアムとアンジーは日本で言う中学生位になっていると思うけど、酒やタバコ、バイクに乗ったり、アルバイトしたりしているので、なんだか大人っぽい。
大人達と比べると、背格好はいかにもな少年体型なので、中学生くらいなんだろうなと思う。

あらすじと登場人物紹介を書こうと思ったけど、あまりに複雑でめんどうなので、ウキペディアでも参考にして下さい。スミマセン。

当時、グレアムとアンジーと同年代だったわたしは、思春期まっただ中の潔癖に生きよう思いつめたり、親や学校のしがらみの重苦しさの中、彼らの友人4人だけの自由な生き方に憧れていたように思う。

でも、30年振りに読んでみると、重く、深い。とても10代の子供が理解出来るシロモノではなかった。
大人になって読むと確かに描かれた話の本当の意味や深さを理解出来るけど、
当時「はみだしっ子」の読者は10代の少女たち、彼女達は彼らと一緒にまさにリアルタイムに悩み、傷つき、苦しみ、答えを探していて、共感していたのかもしれない。

表に見えているものが、違う側面からみたら、まったく違うものに見えたりする。
自己を主張しすぎれば、誰かが傷つき、誰かを気遣いすぎれば自己が葬られる。
立場が変わっただけで、全く別の価値観を持つようになる。
集団と個、表層と深層、ルール、依存と自立などなど、
社会や人間関係の問題点を掘り下げて、設定、エピソード、登場人物、台詞、舞台・・・そして、思考を言葉と絵で具現化して、表現されている。

「難解なテーマなのでわかりやすく」という編集者のリクエストに作者が応えるために、この膨大な言葉の表現手法をとったと言われている。
「この字の多さはマンガじゃねえ〜!!!」と途中で放り出したくなる凄まじさではある。
しかし、そもそも表現しようとしてるテーマ自体が表現の難しいものであり、それをここまで掘り下げ、徹底的に分析し、ここまで説明出来ているのは素晴らしいと思う。ある意味、わかりやすい位かもしれないさえ思う。

この作品のもう一つの魅力は登場人物のキャラクターだと思う。
話の内容がここまで深くなくても充分成り立つ位の魅力的なキャラが多く、絵も美しい。

昔は美形キャラでジョークばっかり言ってるアンジーが好きだったけど、
今読むと、アンジーって、超繊細。こんなに優しい奴だったんだな〜と、昔とは別の意味で好きになりました。
サニーとマックスはそれぞれ問題はあるけど、結構生き強い。それなりに成長していて、安心感がある。家出時、あまりに幼かったせいか? グレアムとアンジーに大切に育てられ、クレーマーの養父母にバトンタッチされ、あんまりひねくれずに済んだのかもしれない。

しかし、4人の中で、一番大人で一番賢く、責任感があり、一番気配りの出来る一見優等生のグレアムが、実は一番危ういと今回はじめて発見しました。一番やっかいな奴だ。結果、一番陰気でヒネクレテて、狂気を抱えていて・・・
4人で放浪している間、ず〜と親代わり兄がわりでいた分、その役割を演じて行き過ぎたのか?長男長女が陥りやすいアレだね。役目を終えると「自分て一体何?」ってなっちゃうアレよ。ある日ぷっつんしちゃうアレ。笑

最終回は中学生のわたしには「何?これ?わかんない!!!もっとちゃんとした決着してよ!」と、腹が立つものでした。ヒステリー起こして、愛蔵書を全部ポイした。
今大人になって読むと、ここからがグレアムの人生のスタートなんじゃないか?と感じました。
罰を受けようと思ったのに受けられず、死のうと思っても死にきれず。

あきらめて、生きる事にした。

そういう風に言うと、何だか暗いだけど、諦めた時に、はじめて生きられるって事ってあると思う。
30年経って、やっとわたしの「はみだしっ子」が完結した感じがしました。

「奴らが消えた夜」のアンジーの作法の話。「クリスマスローズの咲く頃」のアンジー馬鹿息子話。「愛しのオフィーリア」のアンジーがフーちゃんになついてる話。「プルーカラー」でパムの気まずさをアンジーが慰めるのとか好きです。最終回あたりで、アンジーがフーちゃんから「1年分の期待」を前借りしてるとこもいい!!!
って、どんだけアンジーが好きなのよって話よね。えへへ
パムとジャックも、ロナルドもいいキャラよね。ヒネクレてて、繊細で、そばに居たらめんどくさそーなアンジーもしっかり家族の一員になってしまったものねえ。



はみだしっ子 (第1巻) (白泉社文庫)

はみだしっ子 (第1巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 三原 順
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1996/03
  • メディア: 文庫



はみだしっ子 (第2巻) (白泉社文庫)

はみだしっ子 (第2巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 三原 順
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1996/03
  • メディア: 文庫



はみだしっ子 (第3巻) (白泉社文庫)

はみだしっ子 (第3巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 三原 順
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1996/03
  • メディア: 文庫



はみだしっ子 (第4巻) (白泉社文庫)

はみだしっ子 (第4巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 三原 順
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1996/06
  • メディア: 文庫



はみだしっ子 (第5巻) (白泉社文庫)

はみだしっ子 (第5巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 三原 順
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1996/06
  • メディア: 文庫



はみだしっ子 (第6巻) (白泉社文庫)

はみだしっ子 (第6巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 三原 順
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1996/06
  • メディア: 文庫


[右斜め上]わたしが友人に借りた文庫版はこの表紙ではなかったです。念のため。

あと、感心するのはさ〜。 裁判、競馬とか、なかなか興味なければ知り得ない世界を、10代の女の子相手のマンガにすげ〜ちゃんと書いていること。下手な小説より上等です。


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